3 ヘビー級ボクサーの卵たち(浅利和宏の場合)

浅利和宏の場合。


浅利は、酒井の三人あとにテストを受けた。

「酒井のことは覚えています。結構スゴイ奴も来ているんだなと思いましたね。僕はボクシングがとにかく好きだというわけではなかったんですよ。ただ格闘技が好きで、オーディションを知ったのも週刊プロレスに載った広告を見たからです。目立つのは好きです、有名にもなりたい。だからマスコミが沢山来ていて嬉しかった」

中学の時はバスケ、高校、大学はボート部に所属した。

高校の時にインターハイで活躍し、法政大学に入った。

大学時代もインカレ総合二位という成績を残している。

ずっと鍛えていた浅利の身体はとても締まっている。

筋肉がはち切れそうで、数年前に流行った漫画のキャラクターの筋肉マンのようだ。

卵型の顔はしかし筋肉マンよりずっとイイ男である。

スツキリ整っており、誰にも爽やかな印象を与える。

大学卒業後、高校時代の恩師がはじめていた予備校の手伝いをしている時にオーディションを知った。

当日は職場や学生時代の友達が横断幕を持って応援に来ていて「アサリーッ!」とひときわ大きな声援が送られていた。

「冗談みたいに聞こえるかも知れませんが、ボクシングで名を上げて、将来はプロレスラーになりたいと思っているんですよ」

浅利の家族はボクシングを始めることに猛反対であった。

母の洋子はこう言っている。

「和宏がボクシングをやると言い出したとき、家族全員で止めるように思いました。殴り合うスポーツですから、万一、取り返しのつかないケガでもしたら大変と、そんな心配がありました。主人も私も随分と悩みました。親戚も勤め先の方も反対してくださったんですけどね、結局どうしても本人がやりたいと譲りませんで。小さな頃からひとつ言い出したらきかないところがありました。心配は心配ですが、今となっては本人が好きでやっていることですから。たまに家に帰ってくると「世界チャンピオンになるんだ」と夢みたいな事言ってますが、とにかく身体に気をつけて目標に向かって頑張って欲しいと思っています」